鳥かご 7
呼び鈴に、返事はない。
「留守か?」
ペットショップの帰り、猫川は思い切って犬山の家を訪ねてみた。
電話をするしないで迷うくらいなら、もう行ってしまえと思って来たのだが……
念のため裏にも回ってみたが、犬の鳴き声はするものの
人の気配はない。
やはり留守だ。
ちょっと拍子抜けだ。
「けど、犬を留守番させてどこ行ったんだろう?」
ちょっとした買い物くらいなら犬山は犬たちを連れて行くはずだ。
どっちにしろ、ここでぼんやりしててもしかたないし、
「……帰るか」
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バタン。
タクシーのドアをしめ、犬山は久しぶりに訪れた家を見上げる。
犬山が生まれ、育った家。
だけどもう、当分は来ないつもりだった家。
「よし」
気合を入れるために声を出し、
大きな門をくぐる。
相変わらず手入れのよく行き届いた庭だ。
懐かしいとは思うが、決してほっとできる場所ではない。
戸の前で躊躇して、しばらく立ち止まってしまった。
だがここまできて引き返す気は当然ない。
せっかく着慣れないスーツを着て、髪まで切ってきたのだ。
ちゃんと前へ、進もう。
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「本当に、あなたが坊ちゃん…ですか?」
応対してくれた若いメイドはまるで幽霊でも見るような顔をしていた。
その悪気のない様子は、犬山の緊張をほぐしてくれる。
「はい。証拠を見せることはできないのですが…」
「すみません。疑っているわけじゃなくて、坊ちゃんが帰ってこられるなんて思ってなかったので」
そう言う彼女は目を輝かせている。
どうやら歓迎してくれているらしい。
「おかえりなさいませ、夕紀様」
メイドは改めて腰を折った。
「ありがとうございます」
ただいまとは、言わなかった。
帰ってきたつもりはないから。
「あの、母を呼んできてくれますか?」
「はい。すぐお呼びします」
「お願いします」
彼女が去っていく。
和んでいた気分が、また緊張に塗り替えられていく。
母親が姿を現すまでに随分と時間がかかった。
もしかしたら会ってもらえないかも、と思い始めたころになって
ようやく彼女はやってきた。
「ご無沙汰しています」
軽く会釈するが、相手はにこりともせず、
なんのようかと問うてきた。
「お話ししたいことがあります」
「話? 今更なんの話があるの?」
顔も知らないメイドさえ歓迎してくれたのに、
母親のこの態度はどうだ…
ある程度予想していても落ち込みそうになる。
だけど怯んではいけない。
犬山は息を吸い込んでから、言った。
「猫川君を返してください」
つづく…