鳥かご 7
「ああ、そうか!」
大声を出した犬山は急いでさっきまでいた部屋に戻り、
読むこともなく捲っていたペットライフを手に取った。
紙がくしゃくしゃになりそうな勢いで目当てのページを開く。
そして思ったとおりの結果にほくそ笑んだ。
「やっぱり。需要はいくらでもありそうだ」
雑誌を閉じて呟き、今度は慌しく庭へ向かう。
猫川がいなくなってしまう以前から
うちには十分すぎると感じていた庭をぐるりと巡る。
「うちの庭は幸い広いし」
「もしスペースが足りなかったらプールくらいつぶしてしまっても構わない」
もともとついていたというだけで、入る回数はしれているし、
どうしても必要なものではない。
犬山はひとり頷き、決心する。
「しつけ教室を、開こう」
御手洗からの電話で気づいた。
自分にもできることがあるのだと。
それは犬や猫のしつけのレッスンだ。
獣医を目指していたくらいだから、
飼い主たちの悩みを解決するお手伝いなら自分にもできるし、
やってみたいと思った。
ブリーダーよりきっとずっと向いている。
うまくいけばたくさんの人の役に立てる。
そう考えると久しぶりに心がうきうきした。
部屋や庭の改装、資金繰り、
馴染みのペットショップにチラシを置かせてもらおうとか、
そういう具体的なことを考えるより先に頭に浮かんだのは猫川の顔だ。
ここが息苦しい鳥かごでなくなったら、
彼に帰ってきてもらえないだろうか?
しつけ教室を開くから人手がいる。
そう言って彼を引き戻すことはできないだろうか?
開くと決めたばかりで、
成功する補償なんて当然ないのだけれど…
どうしてもイメージする将来像には、彼がいる。
庭で犬たちを躾る彼が目に浮かんでしまうのだ。
笑顔で犬や猫と戯れる彼を思い浮かべて、胸が騒ぐ。
勝手な想像でどきどきして馬鹿みたいだ。
それはわかっている。
断られるかもしれないけれど…
「お願い、してみよう」
犬山は意識的に背筋を伸ばし、あえてしっかりと声にした。
そして、そのまま部屋へ向かう。
クローゼットから長い間着ていなかったスーツを引っ張り出してくる。
きちんとしまっていたスーツは皺ひとつなく、埃も被っておらず綺麗だ。
犬山にとって白衣は制服同然で、着ると身が引き締まるものだが、スーツはまた違った緊張感を与えてくれる。
鏡を覗き込むと、見慣れない自分。
伸びた髪をいじりながら呟く。
「もうちょっとちゃんと、したほうがいいな」
つづく…