休日
猫川がどこかへ行こうと行った二日後、
犬山たちはそろってペットパークへ出かけた。
近くにあるのに来たことがなかったな、と犬山は思いながら
広い園内を見渡す。
これだけ広ければ犬たちがどんなにはしゃぎまわってもいい。
園内は綺麗で、設備も整っているらしいし、
人間にとってもいい気分転換になりそうだ。
と、思ったのもつかの間。
さっきまで晴れていた空が急に曇りだし、
あっという間に本格的な雨となった。
「なんだってこんな、着いて早々降り始めるんだろう…」
天気などどうすることもできないとわかりながらも、
犬山は大人気なく駄々をこねたいような気持ちになってしまった。
そんな心境だったので、すぐに帰ることもできず、
ベンチに座って意味もなく雨を眺めていると、猫川がやってきた。
「天気予報、ちゃんと確認してくればよかったですね」
しょんぼりとして犬山は言った。
「俺、今朝見たけど晴れだった」
「そうだたったんですか?」
「うん。あれしょっちゅう外れるし」
確かに、この地域で放送されている天気予報は当てにならない。
おしゃべりな男が面白おかしく好きなことを言っているだけにも見える。
「帰りましょうか?」
いつまでもここで雨宿りしているわけにもいかない。
犬たちは雨中でも構わず遊んでいるが、
風邪でもひいたらいけないし、泥だらけになって他の人に迷惑をかけたら大変だ。
「帰ったらお風呂に入れてあげないとですね」
努めて明るく、犬山は言った。
「風呂が真っ黒になりそうだな」
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そんなことを言いながら帰ってきた途端、
「晴れるんですから……」
天気予報が外れやすいわけではなく、
天気のほうが変わりやすすぎるのだ。
だけどもう夕方が近く、今さら戻るわけにもいかない。
しかたなく犬山たちは、
犬を洗ったり、家事をしたりと日常の仕事をこなした。
もしかして僕は、雨男ってやつなんだろうか?
思い起こしてみると、
降ってほしくない時に限って雨が降っていた気がする。
逆に雨になってほしい時は意地悪するように太陽は元気だった。
そういうことひとつとっても、
あまり楽しくない人生だった。
と考え、
たかが雨が降ったくらいでそこまで暗くなる自分に犬山は苦笑した。
それほど外出を楽しみにしていたのだ。
自分は案外子どもなのだなと思う。
きっと猫川はもっと些細なこととしか捉えていないだろうに……
しかし実際は、
そこまで卑屈になる必要はなにもなかった。
「なあ」
夕食をはじめるとすぐ、猫川は言った。
「今度は屋根のあるとこにしないか?」
「え?」
咄嗟にはなんのことだかわからなかった。
「今日は雨、降ったし。屋内型のドッグランとかだったら天気気にしなくていいし」
「あ……ああ。えっと、はい」
動揺した犬山の反応に猫川は不満そうな顔を隠さない。
「もう行かなくていいならいいけど」
「違いますよ!」
犬山は慌てて弁解する。
「また誘ってもらえるとは思っていなくて。だからその、びっくりして。
でも嬉しいびっくりです」
猫川は少しの間口を開けたまま固まり、
「おおげさだろう」
と呟いた。
「そう、ですね。すみません」
恥ずかしくなって俯くと、
「いや、別に悪い意味じゃなくて。なんつうか、そんなに喜ぶならいいかなって思うし」
もごもごと最後は小声になって言う。
なんだかくすぐったいような空気になって、
ふたりはしばらく無言で食事をした。
だけど、
と犬山は思う。
あんなに落ち込んだりしてやっぱりバカだったな。
今日うまくいかなくても、もう二度とでかけられないなんてことはない。
当たり前なのに失念していた。
猫川君はもううちに住んでいるんだから。
ことある度にそう思って幸せな気分になる。
これもやっぱり随分大袈裟なんだろけど。
そんなことを考えていると、つい小さく噴出してしまい、
猫川に「ひとりで何笑ってるんだよ」とつっこまれる。
「なんでもないです」
そう言った傍から、
犬山はなんだかほくほくしてつい笑みを零すのであった。
つづく…