計画
「なんだかおかしいんです」
朝食のテーブルで、犬山は切り出した。
「おかしいって?」
猫川はまだ少し眠たそうな声だった。
「犬たちの様子がおかしいんです。なんというか、その、粗相をしたり」
食事中だから気をつかったのだが、
猫川は少しも気にした様子なく言う。
「ああ、確かに最近よく家んなかでしょんべんしてるかも」
「誰がやってんのかわかんないことも多くて、あんま叱れてないしな」
「ええ。それだけじゃなくて」
「なんかストレスでもたまってるみたいな感じで…」
「うん」
猫川が頷く。
犬山はため息をついた。
心配しているのだ。
「どこか広いところで走り回ったりしたいのかもしれませんね」
犬山の家には決して狭くはない庭がある。
もちろん散歩にも連れて行っている。
しかし、それだけでは充分じゃないかもしれないと思う。
いろんなところに行ってみたい。
広々としたところでのんびりしたい。
そう思うのは人間だけの特権ではない。
どこかへ連れて行ってみようかと思っているんです。
そう口にしようとした時、
猫川が言った。
「じゃあ、みんなでどっか行くか」
「え?」
「だって、広いとこで走り回せてやりたいんだろ?」
「ああ、はい! そうですね」
猫川がみんなで出かけようと言い出すなんて予想していなかった。
彼はもうここの住人で、犬たちとも仲がよく、
というか、犬たちの面倒をみるのは彼の仕事でもあるのだから、
ある意味当然の提案だ。
だけども、
なんとなくどきどきしてしまう。
「みんなで」という表現が家族みたいだったからかもしれない。
やけに嬉しい台詞だった。
「喜びますね、犬たちもみや夫くんも」
そう言ったが、
実際いちばんわくわくしているのは犬山だった。
「せっかくだし、日記に書いておこう」
行く前からはしゃいでどうするんだと思わなくもなかったが、
嬉しい気持ちを知らんふりできるほど、
犬山はこういうことに慣れていない。
「晴れるといいなぁ」
まだ詳しい日程も行く場所さえ決まっていないのに、
犬山は遠足前日の子どものように胸を躍らせていた。
つづく…