思案

街へ出ても、雨は相変わらずだった。
というより、少し雨脚が強くなったかもしれない。

とりあえず…



猫川は車を降りてスーパーへ向かった。
冷蔵庫の中身が残り少なくなっていたことを思い出したのだ。


猫川も犬山も大して料理が得意なわけじゃなく、
作れるものは限られている。
ゆえに、買うものもだいたい決まっていて、
冷凍食品やパスタのソース（混ぜるだけのやつ）、あとはパンぐらいだ。

まあ、今日ぐらいはいいか。


そう思って、猫川の好きなものを多めにかごのなかへ入れてレジへ持っていった。
結果的にインスタント食品の割合が増えたので、
犬山が何か言ってくるかもしれない。
でもまあ、自分の金で買ったのだと主張すれば引き下がらざるを得ないだろう。

会計をしてもらってる間、猫川はそんなことを考えた。



にしても、


「欲しいもの」というのがなかなか思いつかない。

ゲーム、はそんなに好きじゃないし、まずハードがない。

服、も見てみたがそんなにいいのがなかった。

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赤信号で停まった車内。
ぼんやり見つめていた左右に動くワイパーの向こうに、
ペットショップの看板がたっていることに気づいた。


そういえば、ドッグフードが少なくなってたかもしれない。

バタン。

車を降りると、雨は確実に激しくなっていた。
雷まで鳴っている。


自然憂鬱な気持ちになったが、
店のなかに一歩入ると気分が一気に晴れる。

やはり自分は動物が好きだと思う。
だからこそ、最初は見知らぬ他人だった犬山の家に住み込むのも我慢できたのだ。
そして、今ではその生活が普通になっている。

懸命にホイールを回しているハムスター。
可愛いけど……

鳥もなあ……

（というか、カゴから逃げてるけどいいのか？）



あの家にこれ以上ペットが増えると世話が足りなくなるだろうし、
ハムスターにしても鳥にしても、
そんなにどうしても欲しいわけじゃない。
新品のバードケージが家にあるところを見ると
犬山は欲しがっているようだが、
まあ今のところは無理だと彼も思っているのだろう。



結局人間と犬猫の食いもんしか買ってないなー…


犬山が言っていた「欲しいもの」は買えていない。
それどころか思いつきもしない。

別に焦って考えなくてもいいだろうけど……


犬山の嬉々とした表情を思い出すと
なんとなく、なんにもなかったと言って帰るのは気が引ける。

欲がなさ過ぎる自分が、薄っぺらで情けないと感じるからかもしれない。


金にも心にも余裕のない生活が長かったから、
食事もある程度食べられれば満足できるし、
物欲もあまりない。
強いて言えば睡眠欲は人並みか……



「あ……」


思いついた。


つづく…