着々
その日の夜。
(なんだこれ…… )
テーブルの上に置かれた不可解なもの。
(……チョコレート)
リボンのかかったチョコレート。
それ以外には見えないが……
(なんなんだ、あれ……)
とりあえず仕事してみるが、どうにも気になる。
そんな猫川をみや夫が不思議そうに見ている。
(…………)
しばらく離れてみたが、可笑しな箱はなくなっていなかった。
なんだかわからないが、夕飯の用意をしてみる。
といってもたいしたもんは作れないし、
あっという間にできあがる。
他にテーブルがないから、ここで食べるしかなく、
どうしたって目に入る。
(…………)
数分後……
「あれ? 猫川くん気づかなかったのかな……?」
今日買ったチョコレート。
あの愛想のいい店員の話によると、日持ちしないらしい。
『今日中に召し上がっていただくのが、いちばんおいしいですよ』
帰り際そう念押しされたから、
誕生日までまだ日があるけどもう渡してしまうことにした。
「やっぱり恥ずかしくてもちゃんと言わないとわからないか……」
まだ8日も前だもんなー…
二十二日までの残り日数を指折り数えて、犬山はため息をついた。
『このチョコは今日までの限定なんです。今日を逃したらもう買えないんですよ』
(とか言われたらなー…)
試食したチョコの味は絶品だった。
猫川にも食べさせてあげたいと思ったから、日持ちしなくても買ったのだ。
よし。
昼間の決心を思い出して、犬山は気持ちを固めた。
つづく…