触発
「話ってなんだよ?」
猫川は苛々していた。
ただでさえ、犬山が無料で犬を譲ったりして気分が悪いのに、
この上何を言われるのか?
話すことなど、猫川のほうには何もない。
「猫川君はその、どうしてそんなにお金に拘るんですか?」
「――はぁ?」
ふざけてるんだろうか?
家に住まわせてもらっておいてなんだが、この先生は随分世間ずれしている。
それが時々むかついてしかたない。
ずっと抑えてきたのに、犬を譲ったことで我慢も限界に達した。
それで悪態をついてみたら、このザマだ。
どうして金に拘る? だと。バカだ、こいつ
「こんなことを訊くのは失礼だとは思いますが、その、金銭的に何か心配なことがあったり――」
「おかしいのはあんただよ」
「え?」
「あんたの金銭感覚がおかしいんだよ」
「そう、なんでしょうか……」
犬山は本当にわからないという顔で俯く。
話にならない。
呆れて立ち上がろうとしたが、犬山に呼び止められる。
「あ、あの、だったら教えてくれませんか?」
「はぁ?」
「僕に、その普通を教えてください」
明らかに、自分が怪訝な顔をしているのがわかる。
「意味わかんねーんだけど」
「だって、理解できない相手とは一緒に暮らせないでしょう?」
「別に。互いに干渉しなきゃいいんじゃねーの?」
今回は自分が干渉したのが失敗だったと、今になって思う。
むかついても、無視しておけばこんな面倒なことにはならなかった。
そうだ。必要なこと意外喋らず、互いを監視せず、自由にすれば楽に暮らせる。
そう思って口を開きかけた猫川の耳に、今まで知らなかった犬山の低い声が聞こえた。
「僕は、君といると息が詰まりそうです」
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(にゃんだよ依玖、らしくない顔しやがって……)
息が、詰まる――
俺だって、好きでこんなとこに来たわけじゃない。
(……依玖? 腹痛いのか? 水槽の魚でも食ったのか?)
「…………」
(にゃあ、依玖……?)
つづく…