接触

ピンポーン



まだクリスマス飾りが取れていなかった頃のこと。
犬山家にとっての唯一の知人、御手洗潔が訪ねてきた。


というのも、とうとう待望の子犬が産まれたからだ。


仔犬の数は二匹。
雄と雌が一匹ずつ。

雪に紛れてしまいそうな、真っ白な仔犬たちだ。


「元気な仔犬が産まれましたね、先生」

「ええ。雄と雌、どちらでもお譲りしますよ。御手洗さんにはお待ちいただいて申し訳なかったです」

「いや、そんなことは構いません。さて、どちらにしよう? 雌もいいが、やはり雄にしよう。雄をいただきます」

「はい。可愛がってやってください」

「もちろんです!」



「先生、本当にありがとうございます!」

「いえ、そんな……」

御手洗の嬉しそうな様子に、ここ最近落ち込み気味だった犬山の心がほわりと暖かくなる。
こんなに喜んでもらえるなら、日々の世話もなんてことはないと思う。
もっとたくさんの人にこんな風な幸せを届けたい。









その日の夜…


「なあ、あんた……」
「なんですか?」

猫川から話しかけてくるのは珍しい。
犬山は、少し緊張しながら返事した。

「金、もらわなかっただろ?」

いきなり金と言われても、なんのことかわからなかった。
考えていると、猫川が苛立った様子で言う。

「犬だよ。あいつにタダでやっただろう?」

「ああ。そういえば、そうですね」


なんだ、そんなこと。 そういう内心そのままにのんきに答えると、猫川が眉間に皺を寄せた。

「あんた、バカじゃねーの?」

「………」


犬山が黙ると、猫川は呆れたような顔をしてその場を去ろうとしたが――







気づいたら、犬山は椅子から立ち上がり、猫川の前に立ち塞がっていた。

猫川は驚いた様子で、目を見開いている。
「……なんだよ?」


訊かれても困る。
何をするつもりで立ち上がったのか、
何を言うつもりで立ち塞がったのか、
自分でも、全然わからない。

ただ衝動的に、こうしていた。


「なんなんだよ?」

こんなに近くで、彼の顔を見たのは初めてだな……

そう気づいて、犬山はふたりに圧倒的に足りていないものがあると知った。





「猫川君、僕と話をしましょう」




つづく…