客人


「わあ。なんだか体が浮きますよ、御手洗さん」
「そういうものらしいですね、これは」

悩みを忘れた犬山先生は、すっかり童心に返っていた。


その頃。

(そういえば、今日の晩飯どうすんだろ……)

犬たちの世話を終えた猫川はふと気づいた。
居候の身だし、犬の世話を手伝うとは言ったが、
まさか、家事も自分がしなくちゃいけないのか? と。

(分担するにしても、ちゃんと決めといたほうがいいよなー…めんどくせーけど…)

性格がアレでも、根が腐っているわけではないし、意外と真面目なところもある。

(それにしても、先生はどこ行きやがったんだ……?)




先生は……


まだ童心に返ったままだった。

「どうして、こんなにおかしいんでしょうね? 御手洗さん」
「おそらく、何か特殊な成分がどこかから発せられているんでしょうな。いや、興味深い」
「こんなに笑ったのは、久しぶりですよ」

その頃。
先生を探しに出た猫川の目に、ひとりの女性の姿が映った。

(なんだ? 客か?)

犬以外に友だちのいない先生だ。個人的な客はないだろうが、
一応ブリーダーをやってるみたいだし、仔犬を見に来た客かもしれない。

(だったとしても、譲れる犬はいねーんだけどなー…めんどくせーなー…)

いくら面倒でも、家の前をうろちょろしている人間を無視するわけにもいかず、
猫川は彼女に挨拶をした。


けれどこれが、ある事件を招くきっかけとなってしまった。





(依玖のやつ、こんなとこで寝てていいのかにゃー? 客がうろうろしてやがるのににゃ)

猫川が眠りこけ、犬山がしゃぼん玉に興じている間に夜が更けて――







女はジロを抱いたまま……


つづく……