前略、天国のおじいちゃん



にゃーにゃー






ガギガギガギガギ




「ああ! こら! そんなショボいゴミ箱でもうちにとっては資産なんだから! 」



まったくもう……













「はあぁ……」


気づいたらため息ばかりついている。

ため息をついたら幸せが逃げるって言っていたのはおじいちゃん、あなたでしたね。
わかっては、いるんですけど……



「はぁぁぁー…」





「ハム、半分でもいいかなー…というか、迷う余地無く半分しか挟めないなー…」

おじいちゃんから受け継いだこの日の出荘、
正直言ってピンチです。
大特価半額で買ってきたハムをケチらなくてはいけないほどにピンチです。



そんなことを言うとあなたは、
風露凌げりゃそれでいいとか、
生きてるだけで幸せだとか、
そういうことを言うんでしょうけど、



はっきり言って、生きていけるかどうかも怪しくなってきました。



家賃は格安、ボロさは格別のこの日の出荘の経営、
やっぱり僕には容易じゃないです。


だって、僕には年金がありませんから……



そんなことを言うとあなたは、
遺産があるだろうと言うかも知れません、


しかし、おじいちゃん、



そんなものとうに税金と消えましたよ……



はぁ……



「今さら食事は別料金とか、家賃の値上げとか言えないし……」



まあ、せめて





「お! うまそうっすね! アラジンが食ってるやつみたいっすよ!」


住人が馬鹿ばっかりでよかった。





「って、まじで言ってるわけないじゃん。あの管理人独り言でかいから気ぃつかうぜ」


(管理人さん、追いつめられてるな……)


「アラジンといえば、なあゲーマー! お前ランプ買わないか? 中東に行った時に買ったんだけど 空飛ぶ絨毯もあるぜ! そっちはとっておきだから売れないけど、見るだけなら見せてやるぞ?」













かちゃかちゃかちゃ。


食器を洗う音も、懐が寒いとより冷たく聞こえる2月。



「下間君、なんでお金って降ってこないんだろうねー?」

「あの管理人さん、僕下間って名前じゃないです。ゲームが好きだから周りが勝手にゲーマーって呼ぶだけで、僕の名前は――」

「はぁー……、貯金がねとうとう二桁になったんだよ。どうしよう?」

「……副業とかしたらどうですか?」

「うーん、でもそしたらここの管理が適当になるよ、きっと。トイレ掃除とかみんなでしてくれるなら――」

「じゃあダメですねー。あ、そうだ。訴訟起こしたらどうですか?」

「訴訟?」



驚いて顔を見つめたが、相手は大真面目な様子でメガネの真ん中をくいっとあげる。



「隣にやたら大きなマンションが建設中でしょう?」

「うん」

「おかげで日当たりが悪くなったじゃないですか?」

「そうかな? 隣といっても距離があるからさほど気にならないけど」

「じゃあ、景観が悪くなった」

「いや、うちみたいなボロアパートが言えたことではないかと……」

「営業妨害…はないですね。客層が違いすぎるし。あ! 精神的苦痛を与えられたというのはどうですか?  あきらかにグレードの違うマンションが隣に建てられて卑屈になっていると」

「いや、なんか虚しくなるからいい」

「そうですか。でもとにかく、隣は利用すべきですよ。引越しの挨拶にPS3を持って来させるぐらいのことはしたほうがいいです」



そういい残して、下間君はポケットから取り出したハンカチで丁寧に手を拭いてさっていた。



「………利用、かぁ」



おじいちゃん、もしかしたらこの日の出荘、未来は明るいかもしれません。




つづく…(たぶん)