奥さまは夢に微笑む
「えーっとー」
ぺらぺらぺら
「あれー? おかしいなー」
ぱらぱらぱら
ぺらぺら――
…………。
「うーんと、これはもしかして……」
「あ、ふーかちゃん。本当に魔女になったねー」
「うん、そうなんだけど」
旦那様はいつもどおりのんきだ。
わたしはとっても困っているというのに
「あのさー、のってなかったんだけど……」
「何が?」
「ラクラクおもちゃ作りの方法とおもちゃ屋繁盛の法則」
「は?」
「は? じゃなくてのってないの、魔法書に」
そう、のってなかった。
なぜかのっていないかったのだ、魔法書に! 魔法書なのに!
ちゃんとはしからはしまで、
たまに漫画のカバー外したら4コマがのってたりすることを思い出して、
カバーもはずしてみたけど、どうしたわけかのってなかったのだ。
「ありえないでしょう?」
旦那様は曖昧な笑顔で頷く。
まったくのんびりしている。
このピンチがわからないのかしら。
魔女になったし、魔法でいろいろ適当になんとかなっちゃうと思って、
おもちゃ屋のための資金を全部魔法関係にぶっこんだっていうのに!
家までリフォームして!
そう言うとさすがの旦那様も青い顔をして、本当に? と訊いてくる。
「本当に。本当にのってないの、魔法書におもちゃ屋経営理論が」
「いや、そっちじゃなくて――」
「ああ、もうこうなったら普通にやるしかないよ、タロウさん!」
「え? うん。あの、で、お金……」
「よし! そうと決まったら早速開店開店!」
まったく、
ラクちんぽんでおもちゃ屋やっちぇると思ったのに。
魔法って案外使えないものだった。
だけどよく考えてみたら、
わたしの類まれなる才能と
だだだだだー
キュートすぎる笑顔とユーモア満点の話術。
そして華麗なレジ捌きの技があれば、
ふつうにやっても楽勝間違いなし。
それに。
普通にやってみてわかったことがある。
ラクをしたらきっと楽しくない。
頑張って作るからこそ、お客さんが気に入ってくれると嬉しいのだと思う。
一生懸命良さを伝えるからこそ、理解して買ってもらうことに喜びを覚えるのだと思う。
ラクして儲けたいなんて、そんな気持ちで夢を売ろうとしてたのがそもそもの間違い。
だからいっぱい努力して、いっぱい素敵なおもちゃを作って
こつこつとお金を貯めて、
また魔女修行にぶっこむのよさ☆
おわり