犬山先生とわんこたち

「ああ、忙しい忙しい」



彼の名前は犬山夕紀。
獣医を目指してこの町にやってきた、ちょっと変わったところもあるが真面目な青年である。

けれど引越し早々、この界隈では動物は滅多に病気や怪我をしないことを
知った。目標を失い困り果てた犬山だったが、
開き直って心機一転、
ブリーダーとして生活をしていこうと決めた。
彼の飼っている二匹の犬はどちらも雑種だが、雑種ほど生命力が強い! 
と信じて疑わない彼にとってはどうでもいいことであった。

しかし生まれてきた仔犬はたった一匹。もともと動物好きの犬山先生は愛着が湧いてしまい、 どうやら、手放すのはやめたらしい。

人間ひとりに犬三匹の生活は多忙を極めていた。

「犬の世話だけで一日が暮れてしまうな。なんとなくタロウを仕事に就かせたから芸も教えてやらないといけないし、はなこもまた妊娠してるし…」

そうなのだ。彼は一応ブリーダーなので仔犬を産ませるのが仕事。タロウとはなこにはまだまだ頑張ってもらわないといけない。







ジャブジャブ

「わぁー、タロウもうちょっと大人しくしてなさい。もうびしょぬれになったじゃないですかー…」

やんちゃでも、おバカでも可愛いのが愛犬だ。
犬山先生も何かとぶつぶつ言いながらも(彼は本当によくぶつぶつ言う)願うことはいつも愛犬たちに関することばかり。


「ああ、ふわふわだなー、ジロ」

生まれたばかりのジロは今犬山先生を最も癒してくれる存在。

こうやってすりすりすると、心がほっこりとなるのである。

「それにしても忙しすぎる…ジロを可愛がる時間がもっとほしい…猫の手でいいから借りたい…」

犬山先生が真顔でそんなことをひとり呟いている時、


ブルルルルン  バタン!



「なんかやったらメルヘンな家だなー…」