奥さまは夢を見る



トンテントンテン

ダダダダーダダダダー



「ねえ、ふーかちゃん」

「なあに? タロウさん。もう飽きちゃったの?」

「そうじゃないよ。あのさー、やっぱりさ、難しいんじゃない?」

「まーた、その話ぃ?」

しかたがないなーと思いながら何度も繰り返した呪文を口にする。

「ダイジョウブ」

「でもさー」

だけども旦那さまは納得いかない風で、首をかしげている。

「だってボクたちおもちゃなんて作ったことないのに、いきなりおもちゃ屋さんするなんてさー。 包丁も持ったことないのに、レストランするようなものじゃない? 資金だってそんなにいっぱいあるわけじゃないし」

「だって夢なんだもん! タロウさん、プロポーズしてくれた時言ったじゃない? ふたりで夢を叶えようねって」



わたしが旦那さまと結婚したのは一週間ほど前。
そう、いわゆる新婚ほやほや真っ最中。

毎晩おやすみのチュウをして、
毎朝おはようのチュウをする。
朝起きたとき、お口のなかは菌でいっぱいだけど気にしないの。
だって新婚だもの。
タコさんみたいにできる限り唇を尖らせるのは別に意味はないの。絶対ないの。



と、そんなことはどうでもよくてー



えっと、なんだっけ? ああ、そう。
結婚式で誓ってくれたの、旦那さまは。
結婚したらふたりで大きな夢を叶えて、いっぱい笑って暮らそうって。
お金より夢を大事に生きていこうって。

とっても感動した。


あんまりにうれしくって、
その喜びをどう表現したらいいかわからなくて……







手づかみにしたケーキを思いっきりぶちこんだっけ。





ほっぺの皮破けるー ってか肉が裂けるー


って、


とってもおもしろかった☆

その後もしばらく口のなかぱさぱさだよって泣き言いってたなー。

ぎりぎりまで水分を与えず
物欲しそうな旦那さまの目の前でおいしそうにジュースを飲んだのはいい思い出☆



「ぷぷぷぷ」






「ふーかちゃん?」

「あ。なんでもない。とにかく大丈夫。だってみんな言うじゃない。諦めなければ夢は叶う! って」

「……ふーかちゃんこの前、軽々しく夢は叶うなんて言って、大人の世界は超シュールだよねって言ってたよね」

「そりゃあ……」


その場その場で
自分に都合のいいこと言ってるだけだもん。
そりゃあ、矛盾だってするわよ。


まったく。
いちいち余計なこと覚えてるなんて、
困った旦那さま☆




(……めんどくさいなー、もう)


ぼそっとつぶやいた。
なんか言った? と言われたけどもちろんなんでもないよと笑顔で返す。
小さくストレス発散が夫婦円満のコツだと思う今日この頃。



うーん。どうしたらいいかなー?
旦那さまが納得してくれそうな説得方法を考えてみるけど、
なかなか思いつかない。


でもでも、 おもちゃ屋さんは絶対にやりたい。
できないとは思わないし。

多少は資金もあるし、住居権店舗のおうちも借りたし、道具も揃えてある。
わたしも旦那さまも器用で、接客にも向いてると思う。
確信があるの。だけど確信はわたし個人の心にあるもので
数字にも出ないし、旦那さまに見せることもできないし……



だけど本当に小さい頃からの夢だったんだもの。
物心ついて2番目の夢。

1番目の夢はなんだけ?
……ああ、そうだ。思い出した。
魔女だ。



小さい頃はよく修行してたっけ。






なんでアレが魔女になるための修行だったのかよくわからないけどっ☆




「あ! そうだ!」

「なに? どうしたの?」

旦那さまがびっくりしてこっちを向く。

「魔女になる!」

「え?」

「わたし魔女になる。そうしたらきっとおもちゃ屋さんだってうまくいくでしょ?」

「…………えっと」



困惑する旦那さまにかまわずに続けた。

「見たの。公園でね、魔女を」

「魔女を?」

「厳密に言うと違うけど、見たの」





「空が急にきらきらしてすっごく綺麗で。あんなの魔女以外ができるはずない」

これぞまさに一石二鳥。
いや、一石三鳥だ。
1番目の夢も2番目の夢も叶えつつ旦那さまを黙らせる…じゃなかった、
納得させることができる。……たぶん!


とにかく魔女になる。なるったらなる!


だって、すっごく面白そうだもん☆



つづく